この人に聞く 農村文化研究所理事長・遠藤宏三さん

この人に聞く
農村文化研究所理事長・遠藤宏三さん /山形
毎日新聞2016年1月24日 地方版

先人の教え未来に 遠藤宏三さん(74)
日本人の生活は昔から農村と共にあった。食料を生産し、住民が協力して祭事を取り仕切り、そこに特有の文化が生まれた。その農村風景が変貌したと言われて久しい。その中で農村文化を継承しようと奮闘しているのが、米沢市六郷町の公益財団法人「農村文化研究所」の遠藤宏三理事長(74)だ。古くからつないできた人間の営みを忘れないこと−−。インタビューからは、その切実な願いが伝わってくる。【佐藤良一】

−−民具の収集はいつからですか。

農民だった父の太郎が民具収集に力を入れ始めたのは1955年ごろからです。農村における生活環境の急激な変化の下、農具や生活雑器が廃棄されるのがしのびなかったようです。先人の暮らしに対する敬意があったと思います。67年に自費で建てた民具館を「我楽苦多(がらくた)館」と呼んでいました。

−−研究所を設立した経緯は。

現在、同研究所長の佐野賢治・神奈川大教授と故湯川洋司・元山口大教授が学生だった71年、置賜地方の民俗文化を通して交流を始めたのが発端でした。夏休みになると数十人の学生を連れて、父が収集した膨大な民俗資料を整理されました。同研究所と置賜民俗資料館を設立したのが76年。後に、父が経営していた幼稚園の建物に一部引っ越しました。延べ床面積約700平方メートルに、農機具、わら細工、おけ屋や木こりの道具、成島焼きの陶器など、約1万点の民俗資料を保存・展示しています。

−−民俗文化財の保存にも力を入れてきました。

佐野先生が国・県・市に働きかけて、97年に置賜地方特有の「行屋(ぎょうや)」3棟などが国重要有形民俗文化財に指定されました。先生が何度も米沢に足を運ばれ、民俗資料を保存する大切さについて話し合ったことを思い出します。祭り、米文化、山岳信仰、民話など多様なテーマで毎年開催している農村文化ゼミナールは、昨年で28回を数えました。

−−「ふるさと学習」にも取り組んできました。

88年から地域を体で学ぼうと市立六郷小との共催で始めました。農村での教育を大事にした父の精神を引き継ぎました。農業体験や、地元の人から戦争体験を聞く学習会も継続しており、多くの戦争遺品も見せています。その取り組みを基に昨年8月、ささやかな戦争資料館を開館しました。人類学者で文化功労者の川田順造先生から看板を揮毫(きごう)していただきました。これまで200人以上の来館者があり、戦争資料も県内各地から集まっています。

−−中国の留学生との交流も始まりました。

佐野先生と共に神奈川大の学生たちが、2年前から六郷町の民俗調査に来ています。中国の留学生もいて、昨年は日中友好の「炉端懇親会」を開きました。個人対個人のレベルでは、日本と中国の垣根は全く感じません。人との出会いと交流がこれまでの活動の支えになりました。今後も、過去・現在・未来をつなぐ懸け橋となり、若者が先人から学び、生きるよりどころを探す場となるように、民俗文化の継承に努めていきます。

■人物略歴
えんどう・こうぞう
米沢市生まれ。1959年、県立置賜農業高卒業。その後、市農業委員などを経て、79年に公益財団法人・農村文化研究所理事に就任し、付設する民俗資料館を運営。91年、同市議に初当選し、5期20年務める。2010年に同研究所理事長に就任。置賜地方の民俗文化財として、「行屋」「草木塔」などの保存活動にも努める。15年、旭日双光章受章。