置賜の「民俗誌」 農村文化研所長が人間の幸福追求

米沢市六郷町の公益財団法人「農村文化研究所」の所長、佐野賢治・神奈川大教授(歴史民俗資料学)が45年にわたって置賜地方の民俗調査を積み重ね、人間の幸福を追い求めた著書「宝は田から−“しあわせ”の農村民俗誌 山形県米沢」を出版した。変貌する農村に生きる人々の生活や慣習、行事を通じて人間の営みを考察し、物や現金などを重視しがちな即物的な現代人の行方に問題を投げかけた。

 今も農村風景が豊かな置賜地方。昔から米の文化、山岳信仰、民話などが伝承され、中でも江戸期に多く建立された草木供養塔は集中して見つかっている。篤農家だった遠藤太郎氏との縁を機に、息子の遠藤宏三・農村文化研究所理事長と共に民具の収集や整理から始まった。飯豊山登拝など周辺地域に根差す「高い山」への信仰が農民と農村生活にどのように結びついているのかなどを、柳田国男の民俗学の手法も用いて迫った。

ブータンの人々の暮らしも参照し豊かさとは何かを問いかけた。「幸福の実現は、着実な日々の暮らしの蓄積とその延長線上にあり、日々の過ごし方が大事となる」と語る佐野教授。農村で代々受け継がれてきた先祖の機知や工夫、生活の知恵などの宝物は、生きる手立てを提供してくれるとの視点にたどり着く。同地方への深い愛情が生み出した一冊だ。春風社より、3500円(税別)。【佐藤良一】 毎日新聞2016年4月23日 地方版