概要

理事長のご挨拶

rijichou

(公財)農村文化研究所 附属 置賜民俗資料館について

遠藤宏三

置賜民俗資料館には日本人の自然と宗教に関する資料である。国指定重要有形文化財である「行屋」をはじめ庶民の暮らしを物語る農具や数々の民具、そして最近脚光を浴びております成島焼などその所蔵品は数万点に及ぶものと承知しております。

縄文早期(川西町相馬山)の石器や土器そして民具はグローバルに申せば、すべて私たちの先祖の暮らしへの戦い、そして子孫への想いであります。

これら原始古代から現代に至る資料を有する私たち置賜、米沢は将来にわたって日本人のふるさととして内外の話題を集めるに違いありません。亡父太郎が農具や民俗資料の収集活動は昭和20年代に始まります。30年代初頭より農村の生産、生活環境の急激な変化はうち捨て壌され、廃棄される民具の数々。

百姓である亡父は「物にも命がある。もったいない。断捨離というわけにはいかない。そして根源には農村文化は日本の文化の原点である。という考えでした。

私はもっぱら運搬と清掃の手伝いとなりました。「受け継ぎて国の司の身となれば忘るまじきは民の父母」世界的に有名な鷹山公はこう詠まれました。改革にあたって、公が心を使われたのは庶民の暮らしであります。遺跡の出土品や多くの民具は主として美術品とは違う価値を有するものであります。

それらの資料を解明し検証し、またそれを現在に生かして体験する事は地域の見なおしあるいは文化の振興につながって行くことでしょう。さらに民具などにつきましては、その製作、使用方法など先人の知恵を記録する最後のチャンスでもあります。そしてこれらの資料群を、未来を担う子どもたちへ「ふるさと歴史学習(平成元年より開講)」を通し、教育資料として利活用しております。

例えば、ビニール紐の経年劣化と麻糸(自然素材)の強靭さを体感させ、本物を理解してもらうなど、ともすればバーチャル空間の中で育ち我がまま、きれる、などといわれる子ども達に、私たちの先祖の生活の苦労や創意工夫、喜び、など「命の教育」の片鱗にせまるべく志向しております。正に民具は幾世代経てたどり着いた知識より知恵の宝庫と考えております。

また、農村文化研究所も当初は「我楽苦多」など館報「農村文化論集」「置賜の庶民生活誌」三部作、トヨタ財団の支援を受け、東京教育大学生、早稲田大学生との研究グループ共著による「六郷の地名と景観」「還暦の農民シリーズ」「島貫広吉歌集」「身近なことわざ集」など出版物も多数ありますが、財団規模も小さくペーパーレス時代の中でインターネットの利活用など新たな対応を模索しております。

そんな中で国・県・市・補助事業による行屋2号棟茅葺屋根復元工事の竣工。又、佐野先生の情熱と置賜各市町の行政の応援を受け開催してきた恒例の「農村文化ゼミナール」も第29回を迎えます。戦後70年の昨年 庶民の戦争の傷あとを風化させてはならないとささやかですが「戦争資料館」を開設しました。人類学者で文化功労者の川田順造先生に揮毫して頂きました。故石川一美上等兵の召集から戦死、葬儀に至る関連資料や数百通の軍事郵便、そして全国的に貴重な特高警察資料など注目されております。

最後に「あらゆる資料は新たな創造のこやし(肥料)であると」司馬遼太郎先生は言われております。民間に起ち、財団規模も小さい資料館ですが「地域学習の場」として「都市と農村の交流拠点」として「刊行にも貢献」できる場を目指しております。陣容も新たに佐野先生の薫陶を受けた学芸員が加わりました。先人の創意工夫、願いが理解され、過去、現在、未来をつなぐかけ橋として多くの方々に御来館頂き出会いの場、新たな交流の場、人が生きるよりどころを捜す場になれたらなどと願っております。

平成28年 盛夏