農村文化ゼミナールの歩み

平成6(1994)年 8月7日(日)
川西町フレンドリ」プラザ


第7回 置賜農村文化ゼミナール
    テーマ「夏の夜の美学」
                 主催  財団法人農村文化研究所・川西町文化財保護協会 
                 協賛  川西町・川西町教育委員会
                 後援  財団法人置賜民俗学会・川西町婦人団体連絡協議会・ミズ・アカデミー  

基調講演 「妹の力〜女の霊力と家の神〜」
宮田   登氏 (日本民俗学会代表理事)
シンポジウム 「子育てのフォークロア◇しつけと一人前」
コーディネーター 湯川 洋司氏 (山口大学助教授)
パネラー 佐野 賢治氏 (筑波大学助教授)
武田   正氏 (山形大学女子短期大学教授)
星   寛治氏 (高畠町教育委員会委員長・詩人)
佐々木 悦氏 (児童文学者)
島貫 光子氏 (犬川小学校長)
コメンテーター 宮田  登氏
アトラクション 「雅楽へのいざない」


「妹の力一女の霊力と家の神」 宮田登
「妹の力」の妹は、」般に女性に対する古称であるが、これをイモウトとして妹の兄に寄せる強い霊力をさしていることを指摘したのは、柳田国男である。柳田は昭和初年に、盛岡の山村におきた犯罪の背後に、古風なイモウトの力を発見し、沖縄のオナリ神が、妹の兄に対する特別な霊力に関わっていたことを類推した。この力の発生は、神話的次元にあり、近親相姦のタブーを犯さないことを前提としている。
兄と妹の関係に限らず、男と女の関係にまで広げると、一般女性の「イモの力」が問題となってくる。この場合のイモを主婦に置きかえる操作は、日本の民俗社会においては容易である。たとえぱ、主婦を「山の神」と表現することはよく知られているが、これは山の神の女神たるゆえんであり、かつ多産性であり、子を産みかつ育てる力を示している。出産に立ち会い、子どもの運命を司り、その子の成長を生涯見守ってくれる山の女神は、妖怪に位置づけられた山姥の属性にも通じている。山の女神のお産を助けた男性が、狩猟の特権を与えられたという話は人口に膾炙している。山の神のお産は神の子の誕生を意味しており、江戸時代、雷神の子の金太郎を育てたという足柄山の山姥の話も人気があった。一方家の主婦が家の神を祀るという民俗は、日本のどこでも聞かれる。
こうした女性の持つ霊的優位がどこから生じたのか、興味深い問題である。その原因について、「産む性」があり、それは一方では女性の血穢と関係している。かつての社会では、血のケガレか月経と出産に伴うことで忌避されたのであるが、それは男性の女性に対する畏怖感から生じた文化であった。現在それは社会的には否定されてはいるが、まだ内心男性が意識していることは否定できない。それはジェンダーのもたらすものであるが、大自然の懐にうまく適応する女性の力が、現代・未来の人類に大きな影響を与えることは言うまでもないことだろう。

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