米沢置賜農業歴史館「暮らしの館」建設趣意書



 地方の時代といわれ始めてからずいぶん時間が経過しました。その間、現実には少子高齢化の流れが深刻さを増すとともに、都市部に人口と経済活動が集中し、中央と地方の格差は拡大の一途を辿っています。
 さらに、インターネット、携帯電話などの普及により、人間関係は大きく変化し、経済活動もよりグローバル化するなど、私たちの生活そのものが確実に様変わりしています。結果として、地域社会はアイデンティティーを失い、自信喪失の状態に陥りつつあるようにも思われます。
 今こそ、地方に住むものは自らの生活文化の拠って立つ所を再確認し、次の時代を拓く力と自信、そして誇りを取り戻さなければならないことを痛感しています。


日本人の郷里、米沢置賜

 財団法人 農村文化研究所および付属置賜民俗資料館(米沢市六郷町)は、日本人の自然観と信仰に関する資料である国指定文化財の「行屋」をはじめ、庶民の暮らしを物語る農具を中心とした民具類、あるいは古窯「成島焼」で作られた陶器類などを長期にわたって収集し、現在、その所蔵数は数万点に及んでいます。
 一方、米沢市の埋蔵文化財調査事業は数々の成果を生み出しています。国指定となった「一の坂遺跡」や「東古志田遺跡」、「台の上遺跡」などから出土した遺物は三内丸山遺跡のそれと比較しても遜色のないものといわれています。
 しかしながら、昨今の地方自治体の財政状況から、これら貴重な資料は地域の公民館や小学校などに分散保存することを余儀なくされています。

 遺跡からの出土品や多くの民具類は庶民の生活資料であり、磨き抜かれた美術工芸品とは異なった価値を有しています。それらの資料を解明、検証し、追体験することは地域文化の振興につながっていくものであり、未来を担う子供たちの教育資料として利活用することも重要な課題です。
 先人たちの生活の苦労や創意工夫、生きることの喜びなどを学びとり、それを自分たちの暮らしを創る手がかりにしようとする意識が育ってくれば、やがてこの置賜の新たな、そして豊かな未来を形成するための力が蓄積されるものと考えます。
 これらを具体化するために、私達は米沢あるいは置賜の先人達が育んできた、古代から現代に至る優れた、しかも豊富な資料群を活かすための施設の建設を当面の目標としていますが、農村文化研究所がこれまで取り組んできた、
「人間の本質を再考する」
「自らの生活文化を明らかにして、自信回復を図る」
「新しい置賜文化を創造する」
という観点からすれば、計画は単に民俗資料館、あるいは農業の歴史博物館を立ち上げることに止まるものではありません。


農は食

 米沢、置賜地方は農業を基盤として生活を営んできました。しかし、それは消費者つまり都市部の存在と表裏一体の関係にあります。都市部との緊密な交流なくしては農業は業として成立し得ないことを認識しなければなりません。
「農」は「食」につながります。食に対する信頼が揺らいでいる昨今、都市部に住む人々に豊かな、そして安心安全な食文化を提案していくことが「農」の新たな役割になってきます。そのためには、現代の生活形態に適した食品の加工技術や販路の開拓などが必要になってきます。
 また、「農」を有機物=エネルギーの生産と捉えれば、エネルギーの有効利用と二酸化炭素排出削減を目指したバイオマスの視点も重要で、「農」の可能性を拡げるための自前の研究施設をもつ必要があります。


地域間交流

 農を支える一方のパートナーである都市部消費者に、大地の豊かな薫りを感じてもらうことは意義のあることです。都市と農村との地域間交流としては、子供たちのためには農業体験学習、大人にはグリーン・ツーリズム、農地のオーナー制や農業講座(土壌、肥料、農薬、栄養など)が考えられます。
 米沢、置賜にはこれら地域間交流のための素材は豊富に存在しますが、十分に活用されているとは言い難い状況にあります。その最大の原因は素材をつなぎ合わせて総合的に交流をコーディネートするという、センター機能がなかったためと思われます。
 米沢市における観光事業は上杉氏の歴史文化を中心に組み立てられてきましたが、新たに農の視点を加えることで、観光の厚みと奥行きが増すことでしょう。


「暮らしの館」建設を!!

 日本の原風景は現代都市文明とは異なる原理に立脚しているように感じられます。そうなれば、いきおい互いの優劣を競ったり、互いに否定しあったりしがちですが、決して生産的な反応とはいえません。
 互いの異なる原理の光を異なる角度で照らし合うことによって、平坦な日常を、より起伏に富んだ幅広く豊かな暮らしに作り変える、つまり新しい文化を築く可能性を得ることが出来ます。
「暮らしの館」は新文化建設の大きな希望を実現すべく、「生活文化の資料館」「食文化の発信」「地域間交流」を三本の柱とする、置賜の総合的、中核的文化施設となることを目指しています。また同時に、中央に比して開きのあった、要素をつなぎ合わせて新たな形を作るという、いわゆる「総合力」を発揮したいと考えます。この力は地域の発展に貢献するための強力なアイテムとなることを確信しています。
ご理解とご賛同を切にお願い申し上げます。



平成20年3月


   発起人

      鈴木  仁  (財)農村文化研究所理事長
      山田 東助  (財)農村文化研究所前理事長
      竹田又右衛門 前川西町教育長
      星  寛治  たかはた共生塾顧問
      藤井 政信  東洋大学国際地域学部長・米沢市景観形成委員長
      佐野 賢治  神奈川大学日本常民文化研究所教授
      湯川 洋司  山口大学教授
      相田 英一  元米沢市議会議長
      遠藤 宏三  (財)農村文化研究所理事・米沢市議会議員
      山田 一郎  (財)農村文化研究所理事・前川西町議会議員



農村文化研究所ホーム       「暮らしの館」計画機構図

「暮らしの館」建設構想        「暮らしの館」イメージ図