行屋 ~信仰の名残~

わが国の各地には生育儀礼や成人儀礼の一つとして山岳登拝を行う習俗がみられる。米沢盆地を中心とする置賜地方一帯では、数え年13~15歳の男子が飯豊山に登拝することで一人前と認められる習俗が大正時代中頃までみられた。

後に年齢は20歳までとなったが、この間に3回ほどの登拝を行う決まりであった。飯豊山は標高2105m、盆地西方にあるため「お西山」と呼ばれ、作神としての信仰と、オニシマイリ(お西詣り)と呼ばれる成人登拝の山として知られた。

お西詣りは、毎年旧盆前の8月13日までに済ますものとされていた。この習俗は、登拝前の行屋籠りとお山登拝の行事とからなり、かつては1か月、その後でも1~3週間ほどお籠りをした。この間は、別火精進の生活を続け、酒や肉食を慎み、何度も水垢離をとって身を清めた。なお、お西詣りを終えると、オキタマイリ・オシモマイリ(お北詣り・お下詣り)などと呼ばれる出羽三山登拝の講中に加わることができた。お北詣りも行屋籠りと三年詣りの習俗があり、これは戦後まで続いた。

このコレクションは、お西詣り・お北詣りに用いられた用具と行屋からなる。これらは、故遠藤太郎氏が第二次大戦後まもなくから収集していた資料を、昭和42年にがらくた館を設立して公開していたもので、昭和40年代後半に在京の大学生たちの協力を得て整理したものにその後の収集品を加えて再整理したものである。その後、がらくた館は昭和54年に認可された(財)農村文化研究所付設の置賜民俗資料館と改称されている。

資料は、お籠り関係用具、登拝関係用具・行屋関係用具・行屋・附登拝関係記録からなる。

お籠り関係用具は、さらに、衣装類、飲食器、炊事・調理用具・差し入れ用具、修行用具に分けられる。行屋でのお籠りは農作業を行いながら続けられる。衣装類には農作業用のシゴトシ・ズボン・キャハンなどのほか、行中であることを示すために身につけるシメが含まれる。シメは麻紐を輪状にして結び目を編んでさまざまな装飾としたものである。飲食器はメシワン・シルワン・サラ・ユノミなどの行屋で使用する個人用の飲食器類で、メシワン・シルワン・サラ・ハシが一人前のセットとなっており、個人名を墨書した布巾で一括りにして保存されている。なお、食事は朝・昼・晩の3回とも、ご飯・汁・おかずの一汁一菜で、米は一回一合と決まっていた。食後はキリミガキといい、食器の中に湯を注ぎ、ノリオトシベラや指などできれいに拭い、糊を落とした湯を一滴もこぼさず飲み干し、さらに盆に受けた湯までも飲み干す決まりで、一回の食事で一升にもなったという。炊事具は鍋が用いられる。ここでも鍋についた糊を落とすノリオトシベラが用いられる。調理具は最低限のものに限られている。

差し入れ用具は、ナベやハチ・マルボンの類である。食事のうちの汁は行人の家から老女が運んでくれることが多く、水を浴びて身を清めた後に作ったものだという。菜の類も同様に差し入れされることがあった。

修行関係用具のヒシャクやオケは、水垢離用で、ジュズは水を浴びた回数を数えるのに使用した。水垢離は行のなかでも最も大事なもので、お籠り中に88,000回とらねばならぬといわれた。朝昼晩に各3回、食前食後に各3回、そのほか用足しに出る都度水垢離をとったという。カキツケは唱えごとなどを書いたものである。唱えごとを覚えることも大切で、毎朝神棚に灯明を上げるときの唱えごとや、登拝の道筋にある神々を拝むためのものがある。ほかに修行中に行った手習い用の用具が含まれている。

登拝関係用具は、さらに登拝衣装類、登拝用具に分けられる。登拝衣装類は白木綿でつくられる。オカンムリといわれる全長2㍍もの布製鉢巻きや首にかけるシメ・ギョウイ・キャハン・アシマキ・ワラジ・カサ・キゴザなどが含まれる。オカンムリは独特の巻き方が難しいものであった。ギョウイは白木綿製で短衣と長衣と股引の組み合わせである。三山登拝のギョウイは行屋に保管しておいて死装束に用いた。カサは菅笠で、飯豊山や湯殿山の墨書がある。登拝用具にはツエ・ズダブクロ・サイセンツヅミ・コウリ・ゼニイレ・イイヅツなどが含まれる。ズダブクロは三角に縫った袋でお洗米などを入れ、サイセンツヅミは網状に編んだ幅広の帯でビッキセン(蛙銭)を包んで身につけた。ビッキセンは西置賜郡中津川の村々を通るときに、行人の代わりに水垢離をとってもらうため子どもたちに配るもので、米と銭を半紙でくるんだものである。コウリの中には着替えのギョウイなどを入れた。

この資料は、地域的特色をよく示しているとともに、この地方の山岳信仰の変遷過程を示す資料として貴重なものである。

 

国指定 重要有形民俗文化財

名称: 置賜の登拝習俗用具及び行屋

ふりがな: おきたまのとはいしゅうぞくようぐおよびぎょうや

員数: 830点、3棟、附14点

種別: 信仰に用いられるもの

年代:

その他参考となるべき事項:

内訳:お籠り関係用具319点 登拝関係用具249点 行屋関係用具262点 行屋3棟

附 登拝関係記録14点

指定番号: 00203

指定年月日: 1997.12.15(平成9.12.15)

追加年月日:

指定基準1: (六)信仰に用いられるもの 例えば、祭祀(し)具、法会具、奉納物、偶像類、呪術用具、社祠等

指定基準2: (三)地域的特色を示すもの

指定基準3:

所在都道府県: 山形県

所在地: 米沢市六郷町西藤泉71

米沢市丸の内1-2-1

保管施設の名称:農村文化研究所置賜民俗資料館・米沢市上杉博物館

所有者名:(公財)農村文化研究所

管理団体・管理責任者名:米沢市

 

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置賜の登拝習俗用具及び行屋 PDF (36Mbyte)

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