第30回農村文化プレゼミナール 特別講演会
草木国土悉皆成仏”もののけ姫”からみた日本文化
日時 6月11日(日)15:00〜17:00
場所 伝国の杜 2階 小会議室
講演 佐野賢治 氏 (神奈川大学教授)
概要
草木塔に刻された「草木国土悉皆成仏」の句は読めば読むほど味わい深い。山川、虫魚も加え、捕鯨問題なども視野に入れると今日の地球環境保護の絶好の標語となる。日本人が生物から食物となるモノの命に対し「いただきます」と感謝の念をもって言い表し、「もったいない」、無生物も含めモノを大事にするしつけの民俗的言い回しが、ノーベル平和賞受賞者・ケニアの女性環境副大臣、ワンガリ・マータイさんによって、環境教育、資源の有効利用を説く標語“MOTTAINAI”として世界的に広まっている。
「もののけ姫」は、日本の民俗文化が培ってきた自然-人-カミの三者の共生・共存関係を集約しており、まさに世界に向けて自然環境保全へのメッセージとなる。近年の猪・鹿・猿・熊の里山・村里への出没は、自然サイドから見れば失地の回復運動といえる。「もののけ姫」では、森のタタリ神として猪が登場しており象徴的である。日本の山村では少子高齢化もあり棚田・山田の休耕や廃棄が目立つが、その跡には杉などの針葉樹ではなく、元の植生、広葉樹を植えて自然に戻すなどの配慮が必要となる。
共生の言葉の背後には、人と自然の生死をかけた苦闘が秘められ、その過程はいくたの民俗誌に記されてきた。開発の歴史とは逆に自然への返還にあたって民俗誌を参考・活用し、その方途を示すことはこれからの民俗学の役目といえる。草木塔の現代的な意味を意味を再考する。